………んっ

「あ、目が覚めた。…大丈夫か?」

「………え」

目覚めると、ウサギ耳の男の子に顔を覗き込まれていた。

「うわっ!!」

わあっ!!…って、なんだよ。驚かすなよ」

「え、あ、あのっ…」

「おい、。お前、僕の布団をそんなにぐしゃぐしゃにするなよ」

「………?」

「そう、。それがお前の名前」

「あたしの…名前」

「なんだよ、自分の名前も忘れたのか?僕がここに来た時につけてやったのに」



つけてやった…あ、そうか…つけて貰ったんだっ、け?



「ほんっと、お前って忘れっぽいな」

「な、なんかわからないけど…ごめんなさい」

「ま、いいけど。………お前まさか、この後どうすればいいかってのも、忘れたわけじゃないよな」

「この後?」

この後、あたしはどうするんだろう?
わけがわからなくて、首を傾げれば…彼は大きな耳をだらりと前に垂らしてから、ため息をついた。

「はぁ〜…も、お前本当に面倒な奴だな」

「わ、悪かったわね!」

「もう一回説明するからな。もう二度と説明されないと思って聞けよ?」

「りょ、了解!!」

とりあえず、ベッドの上で姿勢を正すと、彼はほんの少し口元を緩めて、微笑んだ。
その笑顔が、なんだか凄く嬉しくて…あたしも、つられるように笑った。

「いーか、まずこの国に来たら、僕から名前を貰うってのがルールだ」

「あたし、ここへ来たの?」

「来たから、ここにいるんだろ」

「ってか、ここどこ?あなた誰?」

はぁ!?そんなところから説明するのか?」

「…最後だから」

さっき彼が言った、二度と説明されないと思って聞け!を逆手に言ってみる。
すると諦めたのか、観念したのか…大きなため息をひとつついてから、面倒くさそうに話し出した。

「………ここは、不思議の国だ」

「不思議の国…」

「僕は、白ウサギ…」

「白ウサギ…って、ウサギ!?」



だから、ウサギ耳ついてるの!
コスプレとかじゃないのね!




「それじゃあ、ウサちゃん」

「ウサちゃん!?」

「え、ダメ?だってどうみてもあたしより年下でしょ?」

トシシタ?なんだよ、それ」

「年齢が下って意味だよ」

ネンレイ?

年齢もわからないなんて…ウサギと人じゃやっぱ、年のとり方が違うのかな。

「じゃあ、お前はネンレイいくつなんだよ」

「それは……」





ずきっっっ!!!





ウサちゃんの質問に答えようとした瞬間、こめかみを締め付けるような痛みに襲われた。

…っ!

「おい、大丈夫か?」

「ごめ…ちょっと、頭痛…が」

「急に飛び起きたからだろ〜、はほんっと落ち着きないよな」

「驚かせたのはウサちゃんでしょ!」

「あー、もーいいよ、ウサちゃんでもなんでも。でも僕の名前は覚えておけよ」

「…はーい」

ずきずきするこめかみを押さえながら、引き続きウサちゃんの話を聞く。

「ここが不思議の国で、僕が白ウサギってのはわかったな」

「うん」

「じゃあ、次にがここを出たらどこへ行くか説明するぞ」

「ここにいちゃダメなの?」

「ダメ」

「えー!!なんでー!?」

「お前をここに置いてたのは怪我人だったからだ。怪我が治ったらとっとと出てけ!ここは僕の家だ!」

「…置いてくれたなら、そのままいさせてくれればいいのに」

「僕だけが住んでるんじゃないからダメだ」

あぁ、確かに…
そういえば、ここはウサちゃん以外にもいた。
それが誰かは、頭が痛くて思い出せないけれど、ウサちゃんがとっても大切にしてる人だってのは覚えてる。

「…わかった。次にどこへ行けばいいの?」

「女王の城だ。そこで役目を貰う」

「女王の城?それ、どこ?役目ってなに?」

「近くまで案内させる奴を呼んである。そいつについて行けばいい」

矢継ぎ早に尋ねたが、全てスルーされた。

「あとは、そこで説明を聞け。以上だ」

「終わり?」

「そ、終わり」

すぱっ…と竹を割ったかのように会話が終わる。

「…ウサちゃん」

「なんだよ」

「また会いにきてもいい?」

「はぁ!?なんだよ、唐突に」

「だって、あたしここに来た最初の知り合いってウサちゃんなんだもん!」

「何度も来れるような場所じゃないんだぞ!」

「お城とここ、そんなに離れてるの!?」

「そーいう問題じゃないっ!!」

「あっれ〜、珍しい。ウサちゃんが元気に声上げてるなんて」

聞いたことのない声が聞こえ、視線をウサちゃんからそっちへ向ける。

「…勝手に入るなって言わなかったか」

「だーって、ウサちゃんが呼んだんでしょ?今回は」

「ちっ…また鍵付け替えなきゃじゃん」

「あんまり鍵を付け替えないでよ。これで合鍵何本目かなぁ」

あたしたちの方へ歩いてくる人の頭にも、ウサちゃんのように動物の耳がついていた。
これはウサギじゃないけど、なんだろう?と思い、近づいてくる耳を凝視していると、腰を屈めたお兄さんとバッチリ目が合った。

「こんにちは」

「こ、こんにちは…」



にっこり笑顔の素敵な、背の高いお兄さん。
けれど、カッコイイその人の頭にあるのは、恐らく…猫の、耳。

もしかして、この国では…頭に動物の耳をつけるのがルール、とかいうのだろうか。





Are you Alice? - blot. #05

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